| M1 | F/1.5, 分割鏡方式30m 主鏡 |
| セグメント鏡材 | CFRP/ゼロ膨張ガラス/ゼロ膨張セラミック |
| 光学系 | 三非球面鏡系 |
| 焦点 | ナスミス焦点x2 または4 |
| 視野 | 半径10 分角 |
| 波長域 | 可視光から中間赤外線 |
| 観測装置 | 光学分光器、赤外線分光器, カメラ |
| ドーム | 半径50m |
| M1 | 30m 主鏡楕円面鏡 |
| M2 | 4m 副鏡双曲面鏡 |
| M3 | 不動点斜鏡(主鏡上) 平面斜鏡 |
| M4 | ナスミス室折曲鏡平面斜鏡 |
| M5 | 4m 再結像鏡楕円面鏡 |
| M6 | 焦点取り出し鏡平面斜鏡 |
三枚の非球面鏡を用いることにより視野半径10 分角にわたり実用上無収差で平坦な焦点面を与え る光学系配置を用いる。この光学系は(構成要素鏡表を参照)、第三非球面鏡の倍率がほぼ1 であ り、広い視野を確保できる。主鏡は口径比F/1.5、直径30m の楕円面鏡で1080 枚の六角セグメント鏡 から構成される。口径4m の双曲面副鏡と口径4m の平面折り曲げ第三鏡および第四鏡により、通常の ナスミス焦点と垂直な方向に仮想像面ができるが、この像面を第五鏡となる三枚目の直径4m 楕円面鏡 で再結像して最終像面とする。
| M1 | 30m 主鏡 | 楕円面鏡 |
| M2 | 4m 副鏡 | 双曲面鏡 |
| M3 | 不動点斜鏡(主鏡上) | 平面斜鏡 |
| M4 | ナスミス室折曲鏡 | 平面斜鏡 |
| M5 | 4m 再結像鏡 | 楕円面鏡 |
| M6 | 焦点取り出し鏡 | 平面斜鏡 |
| FP | 最終焦点面 |
二鏡系により生じる最初の仮想像面と最終像面とは基本的に同じ位置にできる ため折り返された光線が重なるが、鏡像として視野が反転するため、円形視野の 半分だけを使うことにすれは光線の重なりを避けることができる。第四鏡をもう 一枚設置して、ナスミスプラットフォームの反対側も使えば、半円形視野が片方 のナスミス焦点で二つ設置することができ、視野直径20 分角のサンプリングが 可能となる。
これらの視野は実寸で半径1m 級の大きさとなるので、各焦点に複数の観測装 置を展開することができよう。将来的に装置が増えた場合には第三鏡で反対側の ナスミスプラットフォームにも焦点を設け、装置を展開することができる。
厳密には光軸中心ではビームが二分するため、最大で光量の50% がケラレることになるが、視野中 心から、回折限界分だけ、実質的には1mm 以上、離れればケラレ無しとなるので、実用的にはケラレ なし光学系と考えて差し支えない。図4.3 に光線追跡で求めたスポット図を示す。光 軸から半径8 分角にわたるまで、スポットの拡がりは可視光での回折限界以内に収まることが分かる。 図4.2 はこの光学系を三次元展開したCAD 図面である。ナスミスプラットフォーム上での、第四 鏡から第六鏡、および最終焦点面の配置の拡大図を図4.4 に示す。
| 望遠鏡構造 |
望遠鏡に限らず機械構造物は重力方向の変化により歪みを生じる。 この歪みをなくすためには、構造物を非常に強固なものにする必要があるが、 一般に強固にすればするほど重量を増してしまい、下手な構造物を作成する と逆に歪みを増やすだけになってしまう。特に、望遠鏡においては、天体の動きに あわせて望遠鏡を追尾させるため観測中は常に重力方向が変化するため、口径が 大型化するにつれて望遠鏡自体の重量が増し駆動系の設計が非常に困難になることがある。
このような変形に対応するため、一般的に望遠鏡構造にはセルリエ・トラス構造が 採用されている。これは、望遠鏡を傾けたときに生じる歪み量を積極的に利用する ことにより望遠鏡構造体の重量を軽くするための構造である。すなわち、 架台から高度軸を通して支持されている円筒形(または多角形) の断面をもつ強固な構造物 であるセンターセクションに対して、望遠鏡を傾けたときに生じる主鏡位置の横ずれ量と、 副鏡等を含めたすべてのトップリング全体の横ずれ量が同じ量になるように設計すること によって実現される。
具体的にはセンターセクションに対して、円筒形の強固な構造物であるトップリング (筒頂外環) が三角形の組み合わされたトラス構造(セルリエ・トラス) で保持されている。 また、主焦点補正光学系や副鏡は、スパイダーと呼ばれる板状・棒状構造物により張力を 加えてトップリングから吊り下げられている。副鏡等を含めたトップリング全体の重心面と センターセクションを連結しているセルリエ・トラスは、滑節により接続され ているため外力によって梁には曲げモーメントは生じない。そのため望遠鏡を傾けたときに、 トップリングは軸線方向に垂直のまま横方向に平行移動する。主鏡も同様のセルリエ・トラス 構造によりセンターセクションに固定されており、望遠鏡を傾けたときに横方向に平行移動 するが、この平行移動量がトップリングと同じになるように設計されている。
このように、セルリエ・トラス構造は望遠鏡を傾けたときに生じる歪み量を積極的に利用する 構造である。しかし、トップリングの重量を主鏡保持部を含めた全ての構造物とバランスを取る ように設計されるため、トップリングが非常に重くなってしまう。そのため、セルリエ・トラス 構造を用いて超大型望遠鏡を建設するとしても望遠鏡自体が非常に重くなってしまうために、 せいぜい口径10m 程度が限界である。
そこで、野辺山の45m電波望遠鏡に見られるようにセルリエ・トラス構造 を用いない望遠鏡を参考に超大型望遠鏡の構造の可能性について検討して みる。この望遠鏡で主鏡はトラス構造に似た構造で支持されており、望遠鏡 自体はセンター・セクションではなく主鏡下部に取り付けられているR 状の レール構造で支持されている。そのため、望遠鏡を傾けた時に主鏡の横ず れはほとんど無視できる。一方、電波望遠鏡ではトップリング全体は非常に軽く 横ずれの量は無視できたが、光学・赤外線望遠鏡では副鏡等を含めたトップリング 全体の重量が重いため横ずれ量を無視することができない。そこで、トップリング 全体の重量は増すが、副鏡自体が横方向に動くような構造にしておけば、 セルリエ・トラス構造を用いなくても性能のよい望遠鏡を作成することができる。 このような概念を元に作成された望遠鏡の概念図が図4.5 である。
軸受の選定ころがり軸受(Rolling Bearing) は、大きな加重に対して回転運動をスムーズ、 かつ精度良く駆動できる。そのため、小型の望遠鏡においては高度軸・経緯度軸の駆動部に ころがり軸受を用いている。
しかし、現在使われている最大径のころがり軸受は、トンネル掘削用の直径7m の軸受程度で、 これよりに大きなころがり軸受を作ることはほとんど不可能であるし、軸受自体が非常に重くな る。そのため、大型望遠鏡ではころがり軸受ではなく、静圧軸受け ( hydrostatic bearing ) が用いられており、日本の大型望遠鏡であるすばる望遠鏡でも静圧軸受を用いている。 本計画においても、すばる望遠鏡と同じような静圧軸受を用いた駆動方法を考える。
図4.7 は、静圧軸受の様子を表している[4]。静圧軸受によるサポートのギャップ量(h) は、 式4.1 で与えられる。
ここで、Q:油流量, η:油の力学粘性, Δp:間隙における圧力損失, b:すきま、b=2(a1 + a2) である。一方、ESO の100m 望遠鏡計画であるOWL 計画では、静圧軸受ではなく、ボギー台車 の使用を考えて いる。このボギー台車の利点は、(1) ベースレールの平面度が悪くても、自分自身で長さが変えられ るため平面度の補正を行うことができること、(2) 従来の静圧軸受では望遠鏡の駆動は別途モータを 用意して行うが、ボギー台車ではそれ自体で駆動をすることも出来る、の二点である。 このボギー台車の手法はまだ具体的に使われたことがなく、技術的にも非常に複雑であり、 下手に使うとかえって使い物にならない可能性があるので、JELT では使用しない。
| 項目 | 要求仕様値 | 設計値 |
| 有効口径 | 20m 以上(ノミナル30m) | 30m |
| セグメント径 | - | 対角 1 m (6 角形) または扇形 |
| 光学系 | グレゴリアン (もしくはカセグレン) | 3 枚非球面鏡 ナスミス焦点 x 2 |
| 観測装置 | カメラ,分光器 (可視,赤外各1) | ナスミス焦点 x 2 |
| 視野(非ブロック視野) | 5 分角以上 | 10 分角 |
| 視野(補償光学視野) | 1 分角以上 @ 2μm | 1 分角 @ 2μm |
| 使用波長域 | 0.39 - 5μm | 0.39 - 5μm |
| 駆動範囲高度角 | 20° - 88° | 20° - 88° (性能保証範囲) |
剛性の高いホースシューを両側に配置し、ミラーセルの自重変形を抑えると同時に、 高度軸周りに高剛性を保つ構成とした。
ホースシューの円筒面左右各々2 点、合計4 点を静圧軸受パッドでラジアル方向に 支える。スラスト方向は、片側のホースシューを2 個の静圧軸受パッドで挟み拘束する。 このような支持方式により 5 自由度を拘束し、過拘束の無い支持を実現している。
今後、ホースシューとセルの重量配分を検討し、軽量化をさらに進める。
主鏡セル主鏡セルの最大の課題は、鏡の支持点数が膨大となることである。支持点数は、 対角1m の六角鏡で1 枚につき3 点、鏡枚数1000 枚で合計3000 点となる。 この課題を解決するひとつの方法として、米国のTMT 計画でクラスターと呼ばれ ているような複数枚の鏡をユニット化する手法が考えられる。クラスター構造 を用いたとして、1 クラスターを構成する鏡枚数を19 枚にしても50 セットが 必要となり、一つのクラスターを3 点支持する場合、その支持点数は150 個に及ぶ。 この150 点をいかに支えるかであるが、TMT 計画で採用されている6 角形のパターン で支持する方法は構造上高い剛性を得るには適していない。そこで、主鏡を光 軸周りに回転し、碁盤目状の部材配置となるセル構造を実現し、少ない部材で高剛性 を実現した。
今後の検討課題は、碁盤目状の構造物とホースシューを如何に最適な構造で接合するか である。
鏡筒部
上部鏡筒構造については、一般的に行われているように一部をワイヤーで引っ張る ような構造を用いず、自立して支持できる構造とした。この場合、スパイダーの断面 形状を楕円としてケラレの最小化と高剛性化を両立せることが可能となる。
水平回転部水平回転部は6 点のスラスト静圧軸受パッドで支持され、中央に設けられた ラジアル静圧軸受パッドで面内に拘束される。ここで、スラスト静圧軸受パッドは 基礎に取り付けられたレール上面を滑る構造とする。一方エンコーダについては、 レールの外あるいは内側に磁石を取り付け、架台側にコイルアセンブリを設け、 速度検出用テープ式エンコーダをレール側に取りつける。 エンコーダのスキャニングヘッドの取り付けられている架台とのギャップの、 温度膨張差等による変動対策としてギャップ保持機構を設けることを検討する。 また、駆動点と検出点を近づけ(いわゆるコロケーションを 実現し) 制御帯域を高く取れるような配置とする。
すばる望遠鏡のヨーク構造を流用する。ナスミステーブル及び高度軸を支える ヨーク構造は、水平回転レール上のヘキサトラス構造体上に設けられた2 組の トライポッドトラスにより構成される。この構造により、6 つの節点が水平回転 レールのうねりに追従して波打ったとしても高度軸スラスト圧への影響が少な く、また望遠鏡の指向軸変動を抑制することも可能である。以下の特長が挙げられる。
図4.21 に示す解析モデルを用い、固有値解析並びに静解析(静的加速度1G が作用する場合) を実施し、固有振動数、振動モード、自重変形を求め、基本構造の妥当性を確認した。
副鏡支持方式原理のトレードオフ検討を図4.36 に示す。図中左の方式は ESO VLT 等に採用されているシュベンジンガー支持方式で、裏面のアキシャ ル支持と外周のラテラル支持からなる。この方式の場合ラテラル支持機構を副 鏡の外周にも設ける必要があり、赤外観測の場合熱放射源になる。図中、中 央の方式は、すばる望遠鏡の主鏡に採用されている支持方式で、鏡に穴を空 け鏡の板厚の中心でラテラル方向を支持する方式である。この場合、鏡の穴加工 が必要で製作工程、コストに影響を与える。
図中右の方式はラテラル方向を2つの支持機構でささえ、その支持力の力 線の交点が鏡の板厚の中心に位置するように配置したものである。この方式 であれば無用の赤外熱放射もなく、鏡の穴加工も不要であり、この方式が好 ましいと考える。
図4.35 は副鏡支持機構の具体的な配置案を示す。パッシブサポートは45 点、 からなる。そのうち9 点にティップティルト駆動アクチュエータを設ける。さ らにその内の3 点に副鏡の剛体位置を検出するセンサーをもうける。ミラー セルは6 本ジャッキで6 自由度位置決めする。ミラーセルの上側(副鏡と反対側) には反力コンペンセータを設け、副鏡駆動の反力をキャンセルする 構造とする。次に副鏡支持機構の特徴について下記に列挙する
多点駆動: 振動モードの腹の点にアクチュエータを配置することにより低次 の振動モードの影響をなくし等価的に副鏡の固有振動数をあげたことになり制御帯域 を大幅に向上できる。
副鏡外周から支持機構を全くなくした構造: 赤外ノイズがない コンパクトなアクチュエータで大推力: (すばる望遠鏡用ティップティルト駆動アクチュエータと同一タイプ)
JELT とすばる望遠鏡のティップティルト駆動アクチュエータへの要求の比較 と必要なアクチュエータ個数を表4.37に示す。ティップティルト駆動アクチュ エータへのJELT 要求仕様をすばるの場合と比較している。チョッピング周 波数を1Hz 程度とすれば必要なアクチュエータ数は6〜9 個程度で十分実現性が あると考える。
参考までにDD 方式とギア駆動方式とフリクションドライブ方式との比較 を図4.38 に示す。外乱トルクとしてギア駆動方式ではアンチバックラッシュ 状態にするために常に2 個の歯車でトルクをかける必要があり低速時、特に 起動時に大きなフリクションの変動となる。また歯形誤差も外乱となる。フ リクション駆動方式でも同じくローラ間に与圧をかけるために同様のフリク ション変動が発生する。またJELT の場合はローラを一体で加工できず分割 せざるを得ないが、継ぎ目の影響がトルク外乱となる。DDシステムの場合は このようなトルク外乱が全くない。
一方、剛性について比較すると、ギア駆動方式とフリクションドライブ方式では 機構の剛性の分だけ駆動装置の剛性が低下するが、DD 方式の場合はモータ以外の 機構が存在せず剛性低下は全くない。
これらの観点からDD 方式であれば高い追尾精度を容易に達成可能である。 コスト的にはギア方式ではギア加工が必要であるが、単位長さあたりのギア加工 コストと磁石のコストを比較すると磁石のコストのほうが非常に低く、 フリクションドライブ方式と大差無い。従い、総合的に判断しDD 方式を採用する。 なお、表4.5にすばる望遠鏡のDD システムの諸元を示す。
ここで、下記にTMT 計画のTechnical Report No.4 を参考にしたDD システムに対する 要求性能を示す。
| Driving Force of Each Coil (N) | SUBARU | JELT | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Number of Coil Assembly | Torque: Coil Driving Force (N) x Radius (m) x Number of Coil | Number of Coil Assemble | Torque: Coil Driving Force (N) x Radius (m) x Number of Coil | Required Torque | ||
| Elevation | 2600 | 8 | 2600 x 3.5 x 8 = 73,000 Nm (〜7 ton m) |
4 | 2600 x 15 x 4 = 160,000 Nm ( 〜16 ton m ) |
> 100,000 Nm ( 10 ton m ) |
| Azimuth | 2600 | 4 | 2600 x 7.5 x 4 = 78,000 Nm (〜7 ton m) |
8 | 2600 x 16 x 8 = 330,000 Nm ( 〜33 ton m ) |
> 200,000 Nm (20 ton m) |
また、超大型地上望遠鏡向けに新たに以下の機能を追加する必要があると考える。
これらの特長を有する追尾制御装置のブロック図を図4.39 に示す。
| 鏡面製作 |
鏡製作の現状
しかしながら近年における我が国の研削技術の進歩は目覚ましく、その加工精度は研磨と 同等の数十nm に迫りつつある。我々はその中でも特に ナガセインテグレックス(株) の 研削盤 に注目している。この会社の開発した研削盤はA300mm 以上の加工範囲に対して 分解能1nm を達成している。研削盤そのものを除震台に載せ、二重の空調によって0.1°C の温度管理を施すことで外乱を除去している。このような優れた環境は干渉法による 形状測定においても大変有利である。われわれは現在ナガセと、鏡面研削に特化した 更に大型の研削盤の開発を検討している。これまでに大型加工のニーズが無かったことが 原因でφ1m 規模の超精密研削盤は存在しない。この点においては現存の研削盤で十分 な検討の後、大型化の意義を判断したい。また研削盤の価格は一台あたりおよそ3 億円で ある。我々の目標としては一台の研削盤で分割鏡一枚を1 週間以内で製作し、研削盤 を複数台占有することで1000 枚の鏡を2 年程度で完成させたい。
なお米国のTMT 計画では、ケック望遠鏡の時とほぼ同じ技術を用いて、最短で3年間での 鏡製作を目標としている。
われわれはこれまでに理化学研究所大森素形材工学研究室と山形県工業技術センタ とで2 回の研削による試験鏡の製作を行なった。
理研では非軸対称形状の加工も想定して、φ300mm の低膨張ガラスクリアセラム Z を回転させずに球面鏡に研削した。干渉測定可能範囲が全面のおよそ70% で、そ の領域における形状精度は4λ 程度であった(図4.48)。測定範囲外は形状精度が低い ために干渉像が得られなかった。
山形工業試技術センタではφ100mm のゼロ膨張セラミック(ZPF : 4.5.2 章参照) を回転研削と非回転研削による方式の二通りで研削加工した。回転研削は円形鏡面の 外周部と内周部とで焦点距離(曲率) が若干異なり二重焦点のような鏡になってしまっ た。外周と内側は共にそれぞれ鏡面精度1λ程度であったが、形状誤差がかなり大きかっ た(図4.49)。非回転研削による研削は、砥石の条件出しや設備不足で不十分な加工であったため、 再度試みる予定である。この試験の詳細は後述する。
高精度な鏡の開発には加工・計測の 2 つが必要不可欠である。広い面積を持 つ望遠鏡の主鏡形状の測定には干渉計が適している。干渉計を使用して球面・ 平面を測定することは容易である。またヌルレンズ3を用いることで軸対称な非 球面の測定も可能である。実際、多くの望遠鏡の主鏡形状がヌルレンズ干渉計 (図4.50 左) で測定されている。しかし非軸対称な鏡面を測定するためのヌル レンズを製作することは難しい。今回、ヌルレンズにかえてCGH(Computer Generated Hologram) を使用した干渉計(図4.50 右) を検討した。
CGHはガラス基板上に波長程度の間隔で透明・不透明の縞模様を刻んだ光 学素子でありFZP(Fresnel Zone Plate)とも呼ばれる。原理は回折格子と同じ で、縞模様1 本ごとに1 波長ずつずれた素源波が干渉することで新たな波面 が形成される(図4.51)。回折格子の縞は等間隔であるため1 次光の波面は傾 いた平面となる。CGH では縞の間隔・形状を変えることで任意の形状の波面 を作り出すことができる。ヌルレンズのかわりにCGH を使うことで測定可能な 面形状の自由度が大幅に増加する。また、複数のレンズで構成されるヌルレンズ に比べて、単一の素子であるCGH は光軸調整が不要という利点も持つ。
超大型望遠鏡の主鏡は曲率半径が非常に大きい。干渉計は被検面の曲率中心付近に 設置するため干渉計と被検面の距離が非常に長くなる。従って振動や空気揺らぎなど 外乱の影響を受けやすい。特に振動の影響を減らすため以下に述べる2 点の工夫を行う。
| 補償光学系 |
地上にある望遠鏡の観測では、大気に密度揺らぎがあるために望遠鏡に入る光の波面が乱され てしまう。このために、望遠鏡焦点で光が一点に集まらず、星像がぼやけてしまう。これをシーイ ングという。この影響は望遠鏡の口径が大きくなるほど問題になってくる。たとえば、すばる望遠 鏡8.2 m で光が理論通り完全に集まったとするとその空間分解能は波長2.2 1m で0:0006 になる (表4.14)。それに対して、大気の揺らぎでの星像の広がりはこの波長で0:005 なので、望遠鏡の性能を全く発揮 できていないことになる。補償光学装置は、この光波面の大気ゆらぎによる乱れを高速の波面センサーで測定 240 第4 章次期光学赤外線地上超大型望遠鏡 し、大気ゆらぎが変化しない間に、光路中に置いた形状可変形鏡を変形させて、ゆらぎを打ち消して波面の乱 れを補正する装置である(図4.79) 。これによって、地上にある望遠鏡でも、ほぼ回折限界の分解能を得るこ とができるようになる。大気ゆらぎの変動は速いため、この補正は毎秒数100 から数1000 回もの速さで繰り 返す必要がある。 補償光学装置の効果は、高い空間分解能が得られるようになるだけでなく、狭い領域に光を集めるので天体 の検出感度も向上する。地上とスペースの望遠鏡とを比較すると、地上望遠鏡の方が同じ経費では口径が大き いものができるため、補償光学系を装備した地上望遠鏡の方が、より高い空間分解能を達成することができる。
| 分解能(") | |||
|---|---|---|---|
| 口径(m) | 0.5μm | 2.2μm | 10μm |
| 1.88 | 0.055 | 0.24 | 1.10 |
| 8.08 | 0.013 | 0.056 | 0.26 |
| 30 | 0.0034 | 0.015 | 0.069 |
補償光学装置は、1970 年代後半に米軍によって人工衛星を監視するために開発されたのが実用化の始まりで あった。その後1980 年代後半からは天体観測のための開発が始まり、米国やヨーロッパなどで、口径 3-4m 級 の望遠鏡で試験的に使われるようになった。その後1990 年代の終わりにはすばる、ケック天文台など 8-10m 級 の望遠鏡には必須の装置として本格的に取りつけられている。これらのシステムの補正素子数は 数10 - 数100 素子 であり、それによって達成される補正性能は、波長 2 μm の近赤外域で回折限界の 10 - 60 % 程度である。 これらのシステムは、現在は自然の星を参照星とするものが主流である。しかしその場合、観測したい天体の 方向に波面測定用の参照星がない場合が多いので、観測する天体が限られるという問題がある。それを解決す るために、観測天体の方向にレーザー光を照射し、上空に人工的に参照星をつくるレーザーガイド星技術が開 発され、実用化が進みつつあり、ケック望遠鏡では 2003 年より観測を開始している。このレーザーガイド星 としては、高度 90km 90km にあるナトリウム原子層に波長 589nm のレーザーを照射し、共鳴散乱を起こし光らせ る方式が一般的である。
国立天文台ではすばる望遠鏡の駆動素子数36 のカセグレン補償光学系を実用化した補償光学グループがそ の実績を踏まえて、新たにナスミス焦点用の駆動素子数188 の補償光学系と、補償光学系の利用範囲をほぼ全 天に広げるためのレーザーガイド星生成システムの開発製作を、科学研究費補助金特別推進研究を受けて5 カ 年計画で推進している。
レーザーガイド星生成システムはナトリウムD 線(588nm) で発振するパワーレーザーを観測したい方向に 打ち、上空約90km の高さにあるナトリウム層のナトリウム原子を励起し発光させることで、任意 の方向に明るい人工星をつくり、この光を光源としてそれより下層の大気中の温度揺らぎに起因する 波面誤差を実時間測定し、可変形鏡で波面誤差を補償するためのものである。鍵となるレーザーとして理化 学研究所と共同で和周波固体レーザーを開発している。図4.78 はそのプロトタイプ装置であり、 波長1369nm と1064nm のYAG レーザー光を混合して和周波にあたる波長589nm のレーザー光を発生する装 置である。ちなみにJELT 光学系では第五鏡が上空16 km に共役な配置となっており、これを可変形鏡 にすることができればTropopause (〜10km) の乱流による成分を補償することができよう。
現在、補償光学系は実用化の時代を迎え、任意の天体を観測するためのレーザーガイド星も実観測に組み込まれつつある。これから の補償光学系は 8 - 10m 望遠鏡での更なる高性能化と30m 級の望遠鏡への応用を視野に入れ、観測目的に合わせて多様化の時代に入りつつ ある。これらは、かつてプリズム分光から始まった分光観測が、今や様々な形式の分光器を用いた観測へと発展しているのに対応する。こ れらの新しい補償光学系は、以下のように分類される。
補正素子数を現在の 100 - 数100 素子から1000 素子以上(8m 望遠鏡の場合) に増やし、 波面誤差を減らすことにより星の周りのハローを落とす。これによって太陽近傍の星の周りに ある太陽系外惑星の検出を狙う。これには、非常に明るいガイド星を使って、狭い視野での高 い波面補正性能を追求する。これは、ハローを落とすことを目標とすることから高ダイナミック レンジ補償光学系とも呼ばれる。
レーザーガイド星は、自然のガイド星と違って無限遠にはない(90km) 。そのため、天体からの光 とは大気を通ってくる経路が違い、それが波面測定の誤差を生む。このExAO では、極限まで 波面誤差を減らす必要があるので、レーザーガイド星は使わない。
より広い範囲の補償光学系をMCAO 技術で作ろうとすると、広い視野をカバーするために 補償光学系の光学コンポーネントのサイズが大きくなり、費用が莫大になってしまう。 そのため、それぞれは狭い視野をカバーする小型の補償光学系を作り、補正したい天体 ごとに補正をかける補償光学系(MOAO) が検討されている。これによって数分〜数10 分角 以上の視野にわたって補償光学系を使った観測ができるようになる。この場合、ガイド星 から天体までの角度は視野が広い分平均して遠くなるので、波面測定の精度は落ちるが、 それでもシーイングよりはるかに高い分解能を実現することができる。これもMCAO と同 様複数のレーザーガイド星を用いる。
大気揺らぎの約半分は地表付近に集中している。ガイド星から離れた角度からきた光でも、 地表付近の大気揺らぎについては補正の誤差は生じない。そこで、地上付近の大気揺らぎ のみを分離して、それを補正する。そうすると残りの波面誤差は上層の大気の分のみとなり、 広い視野(数-数10 分角) に渡って、星像を30 %程度小さくすることができる。これを実現 するには、広い視野を確保できる補正光学系が必要で、望遠鏡の副鏡を可変形鏡にするのが 適している(図4.81) 。通常はレーザーガイド星を想定しているが、ガイド星を見つける範囲 が広いので自然ガイド星だけでよい可能性もある。GLAO の効果を推定するには地表乱流の スペクトルがコルモゴルフスペクトルから離れるスケールであるOuter Scale を知る必要がある。
図4.81: GLAO: グラウンドレイヤー補償光学系。大気揺らぎのうち大きな割合を占め る地表付近の揺らぎだけを補正する。地表付近の揺らぎに対しては、角度が離れた星 からの光でも測定誤差は小さいので、広い視野に亘っての補正が可能になる。
30m 級望遠鏡で使う補償光学系としては様々な可能性があるが、JELT 用に検討しているものは以下のとお りである。
波長7μm 以上の中間赤外域では8m クラスの望遠鏡の時には補償光学系が無くても回折限界の星像を 得ることができたが、30m になると補償光学系が必要になる。
その場合、できるだけ鏡の枚数を減らして、望遠鏡からの熱放射を減らすことが重要であ る。それを実現する方法としては、望遠鏡の副鏡を可変形鏡にする可変副鏡補償光学系と、 可変形鏡を含めて補償光学系全体を冷却する冷却補償光学系がある。
| 観測装置 | 素子数 | 波長域(μm) | 空間分解能(") | ストレル比 | 視野 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 中間赤外補償光学系 | 撮像/分光 | 1000 | 7 - 30 | 0.07 - 0.20 | 0.9 | 2' |
| MCAO | 撮像/分光 | 3000x3 | 1 - 5 | 0.007 - 0.03 | 0.6 | 30" - 2' |
| 多天体補償光学系 | 分光 | 1000 | 0.5 - 5 | 0.1 | 20' | |
| GLAO | 撮像 | 1000 | 0.5 - 30 | 0.3 | 20' | |
| ExAO(HDAO) | 撮像/分光 | 30000 | 1 - 5 | 0.007 - 0.03 | 0.9 | 10" |
| 可視光補償光学系 | 撮像/分光 | 10000 | 0.4 - 1.0 | 0.002 | 0.5 | 10" |
可変副鏡は望遠鏡の副鏡を可変形鏡にするものである。通常の補償光学系では、 焦点付近にビームを平行にする光学系を設け、そこに可変形鏡を置いて波面を補 正するが、可変副鏡を用いると、そのような光学系が必要でないために、全体の 鏡の枚数を増やすことなく補償光学系を実現でき、鏡からの熱放射が少ない補償 光学系となる。また、可変形鏡のビーム径が大きいために、広い視野をカバーす る補償光学系が実現できる。
これまで可変副鏡は、そのサイズが大きいために実現が難しかったが、最近 になってアリゾナ大学のMMT 望遠鏡(6.5m) やLBT 望遠鏡(8.4m£2) 用の直 径600mm、336 素子のものが実用化した。JELT の光学設計では副鏡の大きさ は4m であるため、この技術を発展させることによって、10000 素子程度までの 可変副鏡の製作が可能である。
また、ガイド星からの角度が大きくなるときの星像の劣化の程度は波長に反比例 して小さくなるために、中間赤外補償光学系では、マルチコンジュゲート技術を 使わなくても、広い視野に亘って均一な星像が得られる。
直径4m の可変副鏡の製作が技術的に、もしくは予算的に困難な場合には、中間 赤外観測装置の中に補償光学系を組み込む装置を製作する。技術的には、冷却 しても動作する可変形鏡の開発が必要である。
30m 望遠鏡でのマルチコンジュゲート補償光学系では、視野2 分角に亘って波長1.651m で 回折限界性能を確保する。その為には、3000 素子の可変形鏡を3 枚使って上空の大気揺らぎ を3 層に分割し、それぞれの大気揺らぎの補正を分担する。それをカバーする観測装置としては、 近赤外カメラ、多天体分光器でアレイサイズは約10000x10000 ピクセルとなる。
JELT のナスミス焦点は、20 分角の視野を持つ。これは、実サイズでは2m という広い焦点面 スペースがある。それを生かして、ナスミス焦点全面にわたって100 台の補償光学系付き可視 近赤外分光器を設置し、高分解能での同時分光観測を行えるようにする。
JELT 補償光学系を実現するために必要な主要開発要素を以下にまとめる。
補償光学系用の589nm の波長を出すレーザーとしてこれまでは色素レーザーが主流であったが、今 は全固体レーザーがシステムをより安定に稼動できる、メンテナンスが容易である、小型化、長寿 命にできるなど観点から主力となってきている。その一方式としては、1032nm と1316nm を発振 するYAG レーザー光を非線形結晶に入れ、その非線形効果ででる和周波がちょうど波長589nm に なることを利用した、和周波レーザーが実用になりつつある。現在20W (約8 等星のガイド星を作 る) のものが試験には成功しており、実用としては10W 出力(9 等星) のものが開発されつつある。 MCAO への応用、及びJELT には、9 等星程度のガイド星が5 個以上必要なため、全体では50W 程度のレーザーが必要になる。
この他、光ファイバーを共振器として使う、ファイバーレーザーも新しい可能性として開発が始め られており、これが実現すると非常に安価で小型のレーザーシステムができる。
レーザーから出た光を、発射するための望遠鏡に導く方法として、 光ファイバーを使うことが始められている。これによって伝送光学系の設置は非常に容易になる。 しかし、コア直径が10μm 程度のシングルモードファイバーに10W の極めて強い光を通すこと になるため、内部での非線形散乱によるロスが起こってしまう。それを解決する方法として、 最近はフォトニッククリスタルファイバーというコアの周りに多数の穴を開けて、実効的に 屈折率を下げ、クラッドを形成するファイバーを使う。この技術によって、 コア径の大きなファイバーを製造することができ、光強度の密度を下げることができるようになる。
しかし、10W よりさらに大きい光を通すと、このフォトニッククリスタルファイバーでも非線形散 乱が起こってしまう。新しい技術として、光が通るコアを中空にしたフォトニッククリスタルファ イバーを使って、非線形散乱の影響をなくする中空フォトニッククリスタルファイバーの開発が始 められている。
JELT では、副鏡の直径は4m クラスの大型のものになる。可変副鏡はボイスコイルを使って駆動 していることから現在のストロークは501m と他の可変形鏡よりは1 桁近く大きく、ストロークに ついては他より有利である。大型化に関しては、厚み2mm 程度で形状制御可能な大型薄鏡を作る ことができるかが課題である。
多素子可変形鏡通常の補償光学系は望遠鏡の焦点部の光をいったん平行にして可変形鏡を使って波面補正を行う。現 在一般的に使われているものでは、941 素子のものまで作られている。現状では素子間隔が 5 - 7 mm 程度である。そのままの素子間隔で素子数を3000 素子まで増やすと、全体のサイズが大きくなって しまう。単一可変形鏡とちがって、これは他の光学系と組合せて用いるために、全体の光学システ ムが巨大になってしまう。それ故、素子間のピッチを狭くして、鏡をコンパクトに作ることが課題 である。しかし、ピッチを狭くすると、圧電素子の強度を維持するためには、素子の長さを小さく しなければならないために、ストロークが小さくなってしまう。素子の製造技術、より大きい圧電 係数の材料などの開発が必要である。
シリコン加工技術を使うので、多素子化が可能。1000 素子の試作鏡ができている。しかしサイズが 小さいため、広い視野をとるのは難しい。また、1 素子あたりのサイズが小さいので、現状では短い ストロークしかとれない。そのため、他の低次の可変形鏡と組み合わせる。用途としては、ExAO、 MOAO に適している。
微弱な星からの光を使って波面を測定するためには、光検出器の雑音を極めて低くしなければなら ない。補償光学系の補正精度を上げるために補正素子数はこれまでの数100 素子から、数1000 素 子以上に増える。そうすると、1 素子当たりの光量は減少する。かつ大気揺らぎの時間変動をより 忠実に測定しないといけないために、より高速での波面を測定する必要がある。それを実現する検 出素子としては、読み出し雑音が1e! 以下の高速読み出しのCCD が開発されてきている。
現在達成されている性能は、128 x 128 素子の検出器で、250Hz のフレームレートで雑音1e! 以下 の読み出しである。JELT 用には、画素数を512 x 512 素子まで増やし、2000Hz のフレームレート で雑音1e! 以下の読み出しのものを実現しなければならない。
素子数が増えると、現在の行列の掛け算を行う制御方式では素子数の2 乗に比例して演算量が増え る。10000 素子もの補償光学系になると、CPU が今後高速化することを考慮しても、演算が間に合 わなくなる恐れがある。そのため、波面演算そのもの精度を落とさずに、演算量を減らす技術が開 発されつつある。行列の掛け算のかわりにフーリエ変換を利用する方法で、演算量が素子数にほぼ 比例するので、多素子補償光学系では有効であると考えられている。
大気揺らぎの高さ分布を含めた3 次元情報を使って波面を補正するための、トモグラフィー(断層 撮像) 技術もJELT での補償光学系で、MCAO、MOAO などを実現するための鍵となる。
| ドーム |
望遠鏡の口径が8m から30m に拡大しても、それを収容するドームに要求される機能はかわらない。以下に その機能をまとめる。
天候として、雨、雪、氷、風、高湿度など望遠鏡構造、駆動機構に大きな影響を及ぼすだけでなく、日常の 運用・保守のためにもそれらに対して十分な対策が重要である。特に運用上雨漏りは日常的な頭痛の種であり 完全な解決策はなく対処療法にならざるを得ないことを肝に銘ずべきである。積雪や結氷は望遠鏡運用に支障 を来すだけでなく過度な加重のためドーム構造の安全、さらに保守員の安全などのため融雪に配慮した設計が 必要である。風についても強風などに対する生き残り確率を考慮した設計が不可欠である。
地震についてはサイトの選択に大いに左右される。サイトの特性を調査して耐震設計を図る必要がある。 口径30m 望遠鏡では主鏡のカバーは実際的でなく、望遠鏡の収納位置を工夫すると共に隙間のシーリング の徹底も塵対策には重要である。このようにドームの構造に防塵の考えを導入すべきではあるが、完全なもの は期待できない。主鏡上の塵を日常的に除去する装置の考案が実際的であろう。
風の擾乱は望遠鏡の追尾性能、その結果としての星像の劣化に直接影響をあたえる。すばる望遠鏡では風の 擾乱(運用平均風速7m/s) が追尾性能に大きな影響を与えないように主鏡付近の風速を1m/s 以下に抑制する 方針をとった。たとえば強風時、開口部が風に正対しているとき、ウインドスクリーンを使用して風速を低減 している。しかし、口径30m ではウインドスクリーンの設置は機構上困難である。すばる望遠鏡の経験では、 風向きによって通風口の開口率を変えることにより望遠鏡構造への風荷重をある程度制御できた。しかし、完 全なテストは行われていない。したがって、ドーム側面の通風口などの制御を通じて望遠鏡構造や主鏡面への 風荷重の変化を抑制できる可能性があり、今後の大きな課題である。
望遠鏡周辺の発熱による温度不均一状態はドーム内の屈折率の不均一をもたらし、星からの波面を乱す。こ のため星像の大きさは望遠鏡の回折限界とはならず、屈折率の不均一の程度に依存した大きさになる。8m す ばる望遠鏡の波長500nm での回折限界の星像の大きさは0.015" であるのに対し、星像の実測値は平均0.6" ほ どである。
すばる望遠鏡では望遠鏡も含め周辺の温度の不均一を抑制するため、制御システム、制御計算機群を別棟に 移した。主鏡制御システムなど移動できない制御部分の発熱は冷却液との熱交換で排熱した。また、望遠鏡の 構造体を周囲の温度に常時なじませるため断熱材で覆い、さらにその表面をアルミニュームの薄板で覆った。 アルミニュームが周囲の温度になじみやすいからである。
次に大きな熱源としては日射と地熱がある。特に日射は影響が大きい。ドームの外壁を温度になじみやすい 無垢のアルミニュームとし、その内側を断熱材をふきつけ熱の侵入を抑えた。しかし、それでも日射による熱 の侵入は無視できず、流入熱量を捨てるという方針で空調装置を導入した。実際には日中のドーム内の温度を 予想される夜間の温度に保持するという方針をとった。特に主鏡周辺の温度は夜間温度より2°C 低い温度を目 標とした。地熱については望遠鏡の水平駆動静圧軸受のオイルを冷却することで遮断した。また、観測装置か らの発熱も無視できないので、装置を断熱壁で囲い発熱を冷却液と熱交換させることで排熱を図った。冷却液 との熱交換で捨てられる熱は最終的にはダクトでドームから十分離れた外気に捨てられる。
以上のようにすばるでは、発熱源をなるべく作らない、発熱はダクトで遠くに捨てるという方針をとった。 その結果、年間平均シーイングサイズは0.6" とマウナケア山頂で最高を誇っている。
口径30m 望遠鏡でも同様の方針を基本として、ドームに内包する望遠鏡、周辺機器、保守設備、観測装置 などが明らかになってから具体的な対策を考えていくのが賢明である。
シーイング劣化の原因としては、上空大気、接地境界層、ドーム内環境の3 つに大別される。上空大 気については望遠鏡サイトの選定に際しての大きな決定要因であり、サイト選定の項で論じる。ここで は接地境界層とドーム内環境について述べる。
接地境界層は地面と自由大気の境界であり、厚さは 15 - 30m 程度である。地面で空気の速度がゼロ、境 界層では速度傾斜があって、その上部で自由大気につながる。さらに一般には夜間地面の温度は空気の 温度より高く、境界層では空気は熱乱流状態と考えられる。すばる望遠鏡では乱流の強さが自由大気で の星像の乱れと同等になる高さを実測して、望遠鏡の不動点(高度軸高さ) をそれ以上の高さに設定した。
実際にはドームの形によっては地表面の熱乱流層を望遠鏡光学系の高さまで巻き上げることがあるため、水流 実験、計算機シミュレーションによりそのようなことが起こりにくいドーム形状(柱形状:図4.84) を採用した。 JELT でも同じ考え方でドーム形状を検討すべきであろう。
ドーム内環境については、すでに述べたように発熱を極力防ぎ、それでも不可避な発熱は積極的に排熱する という方針が適切と考える。そして、温度を均一にするのが最終目標であるから有効な対策を検討する必要が ある。すばる望遠鏡では水流実験等で、自然風を取り入れ側面に窓を開けてスムースに流してやるフラッシン グ法が有効と考えられたので採用した。現在、すばる望遠鏡を用いて、フラッシングがどの程度有効なのかの 定量的な評価をしている段階である。その結果はJELT のドームの設計検討に大いに役に立つと期待される。
望遠鏡の運用と保守の目的には、制御システム、制御計算機、機械加工室、電子工作室、観測装置保守・改 良室、蒸着室、冷却システム設備室、部品等保管室、事務所が必要である。すばる望遠鏡では大型の蒸着設備、 主鏡交換台車、主鏡洗浄装置など大型設備は望遠鏡を支えたピアの周辺の空間に収納した。
JELT でも常時発熱しない保守・運用装置や保管庫はこのような空間を利用するのが賢明である。一方で運 用装置は常時発熱が伴うためドームとは別棟に収納するのがよい。
望遠鏡の保守作業として分割鏡の交換・再蒸着、主鏡の塵除去、観測装置交換のために設備が必要である。 これの収納空間は確保する配慮がいる。望遠鏡の保守にはクレーン設備は不可欠である。望遠鏡の構造に合わ せて保守すべき仕事を洗い出し、それに必要なクレーンを検討する必要がある。とくにドーム回転部分に大型 クレーンが必要かどうかは経費にも大きなインパクトがあるので、早急に検討する必要がある。また、大型ク レーンを必要としない場合は望遠鏡建設用に外部クレーンを導入する必要があろう。ドームフラット機能の実 現についても検討を要する。
ドーム構造の強度に関しては、サイトにおける強風の度合い、頻度、氷結の規模、積雪量、地震の規模など 自然環境下で望遠鏡の設計寿命を何年とするか決める必要がある。そのためにはサイトにおける上記のデータ を収集し、要求される設計寿命を考慮した耐久設計を行う。
日常の保守は人間が行うものであり、ドーム内の労働環境が観測条件と相容れない側面が強い。ある程度の 忍耐は必要であるが、過度の忍耐はかえって保守の効率を落とし、ひいては人間の安全を脅かすものなので慎 重な設計方針が望まれる。たとえば融雪装置など保守の自動化の導入など発熱抑制方針に反することも検討す る必要があろう。また、建設地が3500m 以上の高地となる場合、低酸素症の緩和のために酸素補給設備を備え た部屋を用意するなどの工夫も検討する必要がある。
すばる望遠鏡のドームはこれまで述べた方針に沿って設計、建設された。経費、技術の点から方針を 100%実現できなかったが、考え方をなるべく取り入れた。
マウナケア山頂に設置する場合、現在の山頂リッジに大きなドームを配置することは困難である。ま た、ハワイ土着の人々にとって神聖な山頂に麓からも見える形でドームが林立することには、根強い抵 抗もある。このため、山頂開発計画では新しいドームの設置場所を制限することやドームの形状が周辺 景観とマッチするように配慮することが求められている。チリなどに設置する場合は、また違って制約 が生じる可能性があるが、設置場所に応じた制約がかかることを忘れてはならない。
JELT は補償光学技術を徹底的に使用するが、そのドームはやはり接地境界層の影響を最小限に止めるべき である。そのため、建設予定地の接地境界層の状態を実測して熱乱流が有意に小さくなる高さを求めることが 必要である。その上で接地境界層の下層の気流が望遠鏡の光路に侵入しないような外形構造を考えるべきであ る。すばる望遠鏡の円柱構造や半球でもそれを支える高い円柱構造(図4.85) などが有効であろう。ただし、 KPNO では円柱構造の高いドームとしているが、サイトのせいか必ずしもシーイングは良くないので、サイト 選定が重要なことは言を待たない。以下ではこのような方針に基づいて3 つの構造を提案する。
外形は円柱型(図4.84) でフラッシングの考えを取り入れ、側壁に窓を幾つか設置する。望遠鏡の鏡筒を 側壁で隔離してドームと望遠鏡を共に回転させる。制御システムや制御計算機など別棟に納める。すばる 望遠鏡とちがい巨大な主鏡蒸着装置は不要なのでピアーの下部を収納庫としてもよいし、外部環境とし ても良い。また、主鏡など巨大な構造の取り外しなどの作業がないので大型クレーンは必要ないだろう。
フランスの太陽観測グループが採用した望遠鏡の開口部分のみ開けて天体の追尾にあわせて開口部を移 動させる方式はなるべく機械構造を外気にさらさないためシーイング劣化防止に効果がある。ただし、 ドームに2 軸の駆動装置を導入することになるので30m 口径のような巨大構造が作成可能か検討を要す る。この場合でも接地境界層の影響を避けるために望遠鏡の鏡筒位置を高くする必要がある。 ( le telescope Bernard Lyot @ l'Observatoire du Pic du Midi )
30m クラスの望遠鏡のドームの直径は100m ほどになり、このクラスになると大空間建築物(図4.86) と いう観点で考えることも必要であろう。これらの建築物は日本でも万博パビリオンや全天候型スタジア ムなどで古くから発達してきた。これらの建築技術を流用することはコスト削減の可能性がある。ただ し望遠鏡固有の問題点を克服するための試作、実験が欠かせない。厳しい自然環境での生き残り、開口 部の設置、望遠鏡追尾などのための駆動部分の導入、熱制御システムの導入など具体的な検討項目の洗 い出しから始める必要がある。以下に大空間建築の例を示す。( なみはやドーム:大阪府門真市、 太陽工業(株) )
ドームの具体案が無い時点でドームの建設コストは出せないが、8m 級望遠鏡の直径40m ドームの建設コス ト30 億円を基に試算してみる。
JELT の場合グレゴリアン副鏡を採用すると鏡筒の旋回半径は45m。保守空間を考慮するとドーム直径は 100m。費用は直径の自乗とすると、(100=40)2 = 6:25。これをすばる望遠鏡の場合の経費にかけると187 億円。 もし、グレゴリアン副鏡を止めればドーム直径70m 程度。その場合、92 億円。 できるだけドーム直径を小さくする努力が経費軽減につながることに留意する必要がある。100 億円以下に 抑えたいのであれば、その他の大空間建築物を流用したドームの導入を真剣に検討する必要があろう。
| 制御系ソフトウェアおよび計算機システム |
制御系ハードウェア
制御系ハードウェアの構成は基本的にすばる望遠鏡の構成と同様に設計、製作することを
考えている。その構成は、
制御系ソフトウェアは機能内容に従ったレイヤ構成を取る。個々の装置はそれに対応した 要素を制御するための単体制御機能(基本制御レイヤ) を持ち、これらを統括して制御する 統括制御用計算機システム上で動作するソフトウェアにより関連の制御装置と連携した 複合制御機能(複合制御レイヤ) を持つ。これらの機能をより上位レベルで一元的に 統括管理することによって基本構想を満たす統括制御用計算機システム上での総合 機能(統合制御レイヤ) を実現する。実際の操作などはGUI の完備した操作端末計算機(操作レイヤ) で行う。 取得されたデータをアーカイブし、画像解析を行う計算機群(アーカイブレイヤ) も必須である。 総合機能として望遠鏡システム(ここで望遠鏡システムと呼ぶのは、望遠鏡、ドーム、観測装置、 一部の保守運用装置などを包括したものである) の運用には、二種類の運用モードを持つ。 観測のための観測制御モードと保守・開発のための保守制御モードである。これらのモードは 別途仕様が規定される観測装置およびそれら個々の観測装置が持つ装置固有の制御部と連携して機能する。
望遠鏡制御系には、複数の運用者が同時に部分運用あるいは状態監視に携われるものとするが、
安全確保のため、相矛盾する運用命令が投入されても、人的物的な事故が発生しないよう、
運用の管理機能を盛り込んだシステム設計を行う必要がある。
上記の「JELT 制御系基本構想」に基づいてJELT 制御系を設計、製作するには、 人員、時間とも相当量必要である。人員、時間の推定は今後さらに検討を詰めてから行いたい。 製作は内製か外注製作かあるいはその両者混在になると思われるが、以下にJELT 制御系を 設計、製作する上で留意する諸点をまとめておく。
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最終更新日:
| 連絡先: webmaster@jelt.mtk.nao.ac.jp |
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